「生活保護」 北九州市「おにぎり食べたい」餓死事件についての情報サイト

前回のエントリでは、コメントやトラックバック、たくさんのブクマ&ブクマコメントをありがとうございました。

ブクマをきっかけに、ymScottさんからトラックバックをいただきました。
◆Scott's scribble―雑記 2009年10月30日
生活保護に対する印象の根底にあるのは、やっぱり「おにぎり食べたい」なんだよなぁ。>
http://d.hatena.ne.jp/ymScott/20091030/1256892279

そちらでのコメントのやりとりの中で、2007年7月に発覚した北九州市の餓死事件について改めて調べてみました。本当は、調べたことから私自身が考えたことまで書きたいとは思っているのですが、なかなかまとまりませんので、とりあえず、


北九州市の事件については、
生活保護問題対策全国会議>のサイトが
http://seihokaigi.com/default.aspx
「反貧困」の市民運動の立場から、「北九州問題」の一つとして調査とまとめ、を掲載しています。下にご紹介したページのほかに、「各団体の声明」等、興味深い

↓「現地実態調査(2007年7月15日実施)
http://seihokaigi.com/kikakyuu200707gennba.aspx
↓「事件の経過(新聞報道・検証委員会のまとめ」
http://seihokaigi.com/kitakyu200707jikeiretu.aspx


また、このページからリンクで、北九州市の「北九州市生活保護行政検証委員会」のページにも行ってみました。
北九州市生活保護行政検証委員会
http://www.city.kitakyushu.jp/pcp_portal/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=18100

「おにぎり食べたい」餓死事件の前に起こった「孤独氏」事例とその背景としての生活保護などのセーフティネットにかかわる検証を行うための第三者機関として、2007年5月17日に設置され、平成20年3月31日までの任期で5人の委員とアドバイザー1人という構成で実施されています。
 ここのページには、
(1)2007年5月17日の第1回委員会から2007年12月13日の第12回委員会までのうち、9回分の議事録と配布資料(3回は非公開審議なので配布資料のみ)
(2)孤独氏と生活保護に関する(市民対象の)アンケート調査結果
h ttp://www.city.kitakyushu.jp/file/23010100/kensho/anke_1.pdf
h ttp://www.city.kitakyushu.jp/file/23010100/kensho/anke_2.pdf
(3)中間報告に対する市民意見の内容について
h ttp://www.city.kitakyushu.jp/file/23010100/kensho/pabukome_191220.pdf
(4)北九州市生活保護行政検証委員会最終報告書(含む中間報告)
h ttp://www.city.kitakyushu.jp/file/23010100/kensho/saishuu_191220.pdf

が、掲載されています。

委員会の議事録の中では、7月20日の第5回委員会と7月30日の第6回委員会では、この「おにぎり食べたい」事件の事例について検討されています。配布資料は、報道機関・傍聴者用のものですが、個人情報にかかわる部分が墨ぬりしてありますが、保護申請書や保護開始時の調査結果などを読むことができるようになっています。



 この市民団体の現地調査と、北九州市の検証委員会の資料とを併せて読むと、亡くなった方は、人付き合いがあまりとくいな方ではなかったようです。また、友人や血縁者の方もいらっしゃるのですが、だいぶ疎遠になっておられたようです。地域の方のお話だとかつてはいろいろと問題行動があったようで、問題飲酒といえるようなお酒の呑み方をしていたことがうかがえますが、市役所の調査結果では、このところお酒は呑んでいなかったため、身体疾患の症状はやや良くなっていったようなんですが・・・
 ただ、市民団体の調査に登場するご友人や地域の方のお話では「弟さんが亡くなってから様子がおかしかった」とありますし、ご友人とはそのことなどで言い争いになってお付き合いが途絶えていたようです。また、市役所のケースワーカーも精神科受診を促したりしていたようです。検証委員会議事録でも「抑うつ状態だったのではないか」「精神的サポートが必要だったのではないか」という話がでてきています。また中間報告でも「日記の多くの部分を占める自殺願望の記述に胸を打たれた。」と書かれていました。保護申請以前からの貧困状態、弟さんの死、身体の不調などから精神科治療が必要な状態であったのではないかと推測できます。ただでさえ肝機能障害があると、身体の不調だけではなくて感情の起伏が激しくなったり、ずっとお酒を呑んでいた人がやめると抑うつ状態になったりしますし、長年の問題飲酒があった方だと脳の萎縮などもありますから、口頭で促すのではなくて同行受診も必要だったのではないかしらね。

 住宅は普通の感覚だととても住んでいられないほど傷みが激しいのですが、住宅改修についての指導・助言(手続きすれば一定額の費用はだせるはず)もなかったようですし、保護開始時点で、電気・ガス・水道がぜんぶ止まっていたのを、電気のみ1万円の貸付(貸付というからには後の保護費から天引き徴収したのでしょう)で、滞納分を支払うよう指導があり、生保受給中は通電していたようですが、結局、保護廃止後はまた滞納して通電が止まったようです。水道とガスは結局復旧しないまま保護廃止になったのではないかと読み取れます。生活保護世帯には、水道代は基本料金免除になるのですが、もちろん、滞納で給水が止められている場合は滞納分を支払わなくてはなりません。(追記1へ)
 滞納分が多いと生活保護費が出たところでそう簡単には払えなかったりしますが・・・分割払いとか何か復旧させるための方法はなかったのかしらとも思います。ただ、ご本人にはライフラインを復旧させるための「意欲」がすでに失われていたのではないかとも思います。



 検証委員会の中間報告には、「行政の対応の不手際が明るみにでた」と明記され、「提言〜信頼と安心の生活保護行政に向けて〜」という章に、「入りやすく出やすい生活保護制度をつくろう」という言葉が紹介されています。

 そして、その「提言」には、

1「入口」を不当に狭めてはならない。生活保護を受けたいと福祉事務所を音連れ他人には、申請書を交付する。生活保護制度の基本的な事項についての説明や相談に応じることは必要な業務であるが、扶養義務者が義務を果たしているかどうか、などについて申請書交付前に詳しく説明を求めたりすることは行き過ぎである。とくに、ライフラインが停止しているような場合は、早急な対応が望まれる。
2「出口」では、本当に本人が自立できるかを注意深く考察する。実務的に、働ける健康状態にあり、稼動年齢層の人に就労・自立を指導することは法の期待するところでもある。ただし、自立するとして辞退届けが出された場合でも、「辞退」の意思が本当に本人の真意かどうかは重要なポイントだ。また、就労先、勤務条件、収入の金額などの確認は不可欠である。
(以下、3〜8までの重要な提言があるのですが省略します)


 最終答申には、「孤独死」を防ぐための予防策も列挙されています。


 でも、この検証委員会の答申・提言が出された後、北九州市では、2009年6月にまた残金9円という状態での孤独死が発覚しています。この39歳の男性は1月に生活保護の相談に行って30分の面談の後に申請に至らなかったそうです。

 ymScottさんが心配していることはもっともなことです。
 でも、「法」は「美辞麗句」のお飾りではなく、「法」に基づいた保護の執行を行政に守らせることは可能です。裁判の判例厚生労働省の通知も出ています。役所は基本的に規則や通知などの上から降りてきている指示は守らなくちゃならないですから、ちゃんとそこに該当していることを証明していくんです。ただし、「守らせる」ためには、あきらめずに戦わなくちゃなりません。一人では困難です。働くことのできる年齢の成人が、保護を必要とするほど困窮している状態であることを証明しなくちゃならないですから。仕事が得られなければ、社会との接点がどうしても乏しくなっていきます。生活苦にあえいでいるときは、友人関係もとだえがちになったりします。
 通常、働くことができる状態と見なされる人が、本当に収入がなくて困っているときには、いきなり生活保護に相談にいくのではなくて支援団体を訪ねる必要があるのが現状というところでしょう。それが望ましい状態とは思いませんけれども。


追記1:11月9日18:45
 最初にUPした時点では、「生活保護世帯には、水道代は基本料金免除になるのですが、もちろん、滞納で給水が止められている場合は滞納分を支払わなくてはなりません。」と書いてしまったのですが、コメントで「全国バージョンなのか」というご指摘があり、調べてみたところ、全国一律というわけではないことがわかりましたので、訂正しました。
 もちろん(という言い方には語弊がありますが・・・)北九州市には減額免除の制度はないようです。

参考サイト:全日本民医連 民医連新聞
http://www.min-iren.gr.jp/syuppan/shinbun/2007/1416/1416-04.html