暫定規制値とモニタリングについて

食の安全…我が家の場合 - よたよたあひる’S 「はてな」日記
私は「科学者」には正確さを期待するので - よたよたあひる’S 「はてな」日記
誤解で「御用学者」や「御用報道」認定を増やしてもあまり得るものはないと思う - よたよたあひる’S 「はてな」日記
の続きです。

 まずは前回の補足です。
 武田先生のブログは、特に子育て中の「お母さん」たちに向けて、その不安をうけとめて、いろいろと生活に役立つ情報を提供している*1ので、参考にしている熱心な読者も多いでしょう。その記事中で「専門家」「行政」「生産者」「企業」への不信を根拠が曖昧でかつ検証が難しい情報として書いておられるのが問題だと考えています。
 「専門家」「行政」「生産者」「企業」を「なんでも信じたほうがいい」という提案ではないです。データなど根拠があるものや成果をあげているものについてはきちんと評価するべきだということに尽きます。
 なぜならば、全面的な不信にとらわれてしまうと、信じることができるものは、「自分が信頼している人の情報」や「自分が動いてやったこと」だけになってしまいますから。「自分が信頼している人の情報」が妥当なものかどうか、それは信頼関係だけが根拠になるので、「間違い」が混ざっていても訂正ができません。ニセ科学陰謀論が広まる土壌になります。

しつこいようですが、武田先生の7月12日の記事
http://takedanet.com/2011/07/post_93a0.html
より以下に書き出しの部分を一部引用します。批判のためです。

また、基準値以上の牛肉を食べても「健康に影響がない」という専門家が現れました。
2011年7月12日、朝7時のNHKニュースに登場した何とか研究の権威の先生で、彼は、
「1日500グラムの牛肉を200日食べたら1ミリシーベルトになるので、汚染牛肉食べても健康に影響はない」
と言っていました。
放送するNHKもNHKですが、こんなことを言う専門家も専門家です。

 まずは、前回の記事、  
 誤解で「御用学者」や「御用報道」認定を増やしてもあまり得るものはないと思う - よたよたあひる’S 「はてな」日記を書いた時にはまだ自分でも未整理で不適切な表現をしてしまった部分について、武田先生への謝罪とともに訂正します。前回記事では

でも、この記事で紹介されている「発言」をした「専門家」が実在しているのかどうか、という大問題があるのです。

と、武田先生が「専門家の発言を不正確に紹介している」という部分を「実在しているのかどうかという大問題」*2として批判を書いてしまったのですが、「500gの牛肉を200日食べると1mSv」が、「暫定基準規制値限度いっぱいの500Bq/kgの牛肉500gを200日なら1mSv」という計算なら、暫定基準規制値の説明としてあってもおかしくはない…食生活上ちょっとありえないけど、*3ありえない食生活、極端な食生活でも1mSvという説明だったら、まったくないとは言えない。だから、私がその7月11日の朝のNHKニュースを見ていない以上、「実在しているか」という表現は過剰な批判だったと反省し元記事も訂正します。
 それでも、【汚染牛肉を「安全」という専門家】というタイトルで
何とか研究の権威の先生で、彼は、「1日500グラムの牛肉を200日食べたら1ミリシーベルトになるので、汚染牛肉食べても健康に影響はない」と言っていました。
 という紹介をするのは、「専門家」と「報道したNHK」をまとめて「国民をだまそうとしている悪者」という方向に読者をミスリードするものだと考えますので、その点に対しての武田先生への批判は撤回しません。

 武田先生による「7月11日朝7時のNHKニュースに登場した専門家」の発言紹介は、相当部分が省略されているはずです。前半は暫定基準規制値*4後半は「たとえ汚染された牛肉を数回食べたとしても、それがそのまま健康被害につながることはない(ただしずっと食べるわけにはいかない)。という内容のはずです。この「たとえ汚染された牛肉を数回食べても大丈夫」という情報は、知らずに食べてしまってものすごく心配している人には大切な情報だと思います。*5必要なのは、「だから食べてしまったもの」の心配をしているより、これからの食生活を気をつけましょう。」という話じゃないかと思うわけです。

 ただし、武田先生がこの記事で主張していることは、「暫定基準値」の値が高すぎる、という問題点についてなんですよね。それは記事後半を読めばわかります。
 私は武田先生の暫定基準規制値に対する批判について、「より安全であるための方向で数値を決める必要がある」という点については異論がありません。*6ただ、今もなお綱渡り状態の壊れてしまった福島第一原発を抱えている以上、まだすぐに事故前の基準に戻すことは難しいだろうと考えています。
 暫定基準規制値は「絶対の安全」を保障するものではありません。現在の日本で、「それなりに安全な」飲料水や食品が日本に住む人全部に所得が少ない人でも購入可能な値段で十分に行き渡るようにするために設定された数字だと考えるしかないです。
 このあたりの考え方については、生活クラブ生協と東都生協のサイトで学びました。86年のチェルノブイリ事故以来、残留放射性物質の検査をずっと継続してきた、この問題については実績がある生協です。
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放射性物質の農畜水産物への影響に関する当面の対応について(2011/7/7)
放射性物質の農畜水産物への影響に関する当面の対応」東都生協組合員向けの7月7日お知らせPDFファイル
http://www.tohto-coop.or.jp/news/upload_pdf/upload/%E3%80%90%E7%A2%BA%E5%AE%9A%E7%89%88%EF%BC%9A%E4%BF%AE%E6%AD%A3%E3%80%9120110707%E6%94%BE%E5%B0%84%E7%B7%9A%E5%BD%93%E9%9D%A2%E3%81%AE%E5%AF%BE%E5%BF%9C%E3%83%81%E3%83%A9%E3%82%B7%EF%BC%AE%EF%BD%8F%EF%BC%96.pdf


 しかも、実際のモニタリングの数値は、ND(検出限界未満)を含めて、暫定規制値よりもはるかに低い値になっています。*7
 これは、「行政や生産者が数値をごまかしている」からではありません。事故後3か月半経過し、半減期が短いヨウ素放射線をださない物質に変わっていったことや、野菜などは事故当時に成長していてフォールアウトを直接浴びた作物の収穫が終わって(汚染されたものや汚染されたおそれのあるものは廃棄された)、新たに育った作物が収穫されていることに加えて、生産者や行政の研究・指導機関が、これまでの研究成果(その中にはチェルノブイリの経験を踏まえた研究もあるでしょう)を元に、土壌の改良や肥料、家畜の世話の方法を工夫している成果があがっている、と考えていいでしょう。
 そろそろ見直しを始めても良いのかなとも思いますけれど、「最初から全くいい加減な国民を被曝させるための基準だ」と言うのは違うと思います。
 それこそ、武田先生も「被曝はとりかえすことができる」と書かれています。
http://takedanet.com/2011/04/post_0ebb-1.html
http://takedanet.com/2011/07/post_a5f3.html

 将来的になんとかより「安全な生活環境」を取り戻して、被曝した分を取り返すためにも、生産者への支援体制を整え*8同時にモニタリングの強化で消費者の安心を確保することが重要でしょう。
 行政は後手後手にまわってますが、あまりにも被害の広がりが大きいという現実の前に間に合っていない、というところではないかと思います。
 生産者に対しても、行政に対しても、流通に対しても、厳しく監視するけれども、同時に再建に向けての支援を惜しまないこと。成果は正しく評価すること。それは、個々ばらばらの対応では難しいことです。「盲信」じゃ困るけれど、「不信が当然」でも何もできない。結局、自分の首を絞める方向に向かってしまうのじゃないか。
 そんなふうに考えています。

*1:実際に被曝低減に役立つ生活情報を発信していることも多いと思います。そこは否定しません。

*2:勘違いからきた「ねつ造か」というノリですね…反省します。記事の表現も直さなくては

*3:毎日牛肉を500g食べる生活だと、被曝の問題以前に、生活習慣病のほうが心配になりそうです。あと経済的に無理ってこともある。昼にステーキ、夜に焼き肉とかじゃないと一日500gにはならないんじゃないかな。あ、チェーン店の牛丼屋で肉の特大盛りだと1食が300gくらいにはなりそうだけど、チェーンの牛丼の肉は輸入牛肉なので、生活習慣病問題的にはまずいのは同じだけど今回のセシウム汚染とはちょっと関係ないでしょう。

*4:ブックマークコメントで、id:ohira-y さんがご指摘くださったので、確認しましたら厚生労働省3月17日の通知(食安発0317第3号)だと「原子力安全委員会から示された指標値を暫定規制値とし」と書いてあるので、「暫定規制値」が役所のつけた名称のようです。ただ、「暫定基準値」という言い方もかなり一般化して武田先生以外にも新聞や専門家が使っているので、どっちでもいい、ということも言えるのですけど。一応、役所のつけた名前を使っておこうと思います。通知や議事録などを検索するのにはこっちの名前のほうがよさそうなので。

*5:もしかしたら私も食べているかもしれません。父の日特売で普段は買わない国産黒毛和牛のステーキ肉を買ったんですよね。霜降り肉でとっても美味しかった。ほら、そういう「特別なご馳走」のつもりで食べた肉で健康被害がでたらどうしよう…と思っている人にとっては、「数回食べても大丈夫」は大事な情報なんですよ。だって食べてしまったわけで、「それがもとで癌になったらどうしよう」と自分を責めて悩んでいるほうが健康によくない。

*6:記事に書いてある計算方法については態度保留にしておきます。暫定基準規制値の決め方はなかなか複雑なのでまだよく理解できていません。

*7:数値のでているHPをいろいろ調べてリンクした部分がPCの誤操作で消えてしまった >< ので、あとでもう一つ記事を上げます。

*8:今回の和牛の、餌の稲わら問題は、例年、当たり前に使ってきた飼料が無い、という大きな問題を明らかにしました。安全な水と飼料は不可欠です。一度、廃業してしまった農家が再起するのはものすごく困難なことですから、なんとか生活と生産…たとえ出荷できなくても…を続けることができる条件を整えないとまずいです。