「児童ポルノ事件急増」!?

楽天の方にUPしたのと同じ記事だけど、児ポ法について考えていることのシリーズの一つとしてこちらにもUPしておきます。一部加筆あります。


asahi.com 2009年8月6日21時20分記事
↓<児童ポルノ事件、過去最悪ペース 上半期27%増加>
http://www.asahi.com/national/update/0806/TKY200908060133.html
以下、記事本文引用
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 18歳未満の少女の裸の写真をやりとりするなどの児童ポルノ事件が、今年上半期(1〜6月)は昨年同期比27%増の382件になった。警察庁が6日発表した。このままのペースだと過去最悪だった08年(676件)を超えそうだ。
 被害児童は前年同期比51%増の218人で、上半期としては過去最多。低年齢化が進んでおり、小学生が同73%増の33人、中学生が同65%増の106人だった。
 児童買春事件も3年ぶりに増加に転じ、前年より7%増の557件だった。
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 まず、私の立場として、性的搾取・性的虐待の成果物としての「児童ポルノ」には断固反対であること、同様に「児童買春」も同様、性的搾取・性的虐待の問題としてとらえているということを表明しておきます。
 ただ、この記事からは、実際の「事件」が増えているのか、それとも「摘発数」「検挙数」が増えているのかがよくわからない(そんなものがわかってたまるかという意見は当然あるかとは思いますが)書き方であり、実数よりも昨年比増加率を見出しに掲げていることから考えても、総選挙後の国会審議であらためて提出されるであろう、「児童買春・児童ポルノ処罰法改正」に向けて、どっちかといえば、「危機感を煽る」ことで法改正への世論を作ろうとするものだと思います。
 被害児童を保護し、新たな被害を防ぐために何が必要なのかは、もっと議論した方がいい。少なくとも、前回、6月26日の法務委員会で行われたコントまがいの議論は論外なのですが、新聞にはもっと実際的な論点の提起を期待したいところなんですが、「規制強化」という以上の視点があまりみあたらない。

YOMIURI ONLINE 2009年8月6日14時57分記事
↓<児童ポルノ摘発、最悪の382件…ネット絡み半数>
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090806-OYT1T00635.htm?from=nwla
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 インターネット上などに氾濫する児童ポルノに絡み、全国の警察が今年上半期(1〜6月)に児童買春・児童ポルノ禁止法違反で摘発した事件は382件で、前年同期を82件上回り、統計を取り始めた2000年以降、最も多かったことが6日、警察庁のまとめでわかった。
 摘発人数も、101人増の289人で同じく最多。押収画像などから身元が判明した被害児童は218人で、このうち小学生以下は前年同期より16人多い35人を占め、被害の「低年齢化」が進んでいることも明らかになった。
 児童ポルノの摘発は5年連続の増加。ネット絡みの事件は前年同期比83件増の194件だった。
 身元を特定できた18歳未満の被害児童を年齢別に見ると、中学生が106人で最も多く、高校生71人、小学生33人、無職6人。前年同期はゼロだった未就学の幼児も2人いた。
(記事中に掲載の図版「児童ポルノ事件の摘発件数と被害者数の推移」のグラフあり)
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 こちらの記事の方が、「摘発件数」「摘発人数」と明記していて、警察庁が何を発表したのかがよくわかります。興味深いのは、「摘発件数」の増加(前年同期82件増)よりも「摘発人数」の方が多いこと(前年同期101人増)。また、ネット絡みの事件が前年同期比83件増で194件である、という記述があること。
 これらの数字を元に、今年上半期と08年同期における、「摘発件数」「摘発人数」「ネット絡み摘発件数」の比較を整理してみました。

【表 児童ポルノ事件 09年上半期と08年上半期の比較】

ここから読み取れることとして、
(1)摘発人数の増加に比べて、摘発件数の増加が伸びていない。
 →摘発者一人あたりについての摘発件数が少なくなっている
(2)ネット絡み事件の摘発件数が飛躍的に伸びている
 →印刷・出版という形のものよりもネットを介した「事件の摘発」が多くなっている
ということがいえるでしょう。
 これは、08年から09年にかけて、児童ポルノの販売や配布の媒体が印刷・出版物からネットに急速にシフトしたというよりは、ネット上の児童ポルノの捜査が09年になって充実したということではないかと考えます。
 その一つの根拠が以下の記事。

◆YOMIURI ONLIN 2009年6月19日記事
↓<児童ポルノ、画像から捜査…警察庁に分析班>
http://www.yomiuri.co.jp/net/news/20090618-OYT8T00613.htm
以下、本文の一部引用
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(前略)
撮影場所、容疑者を特定
 すでに画像解析による捜査が進んでいる欧米では、画像のささいな手がかりから撮影場所を絞り込み、撮影者を逮捕したケースも報告されている。「児童ポルノ対策の後進国」として国際社会から批判されている汚名を返上するため、同庁は今後、画像解析による取り締まり強化とともに、被害児童の保護を積極的に進める。

 分析班は同庁少年課に設置され、全国の警察本部が押収したり、サイバーパトロールで見つけたりした児童ポルノ画像や動画を画像解析システムで分析する。

 全国の警察が昨年1年間に摘発した児童ポルノ事件は過去最高の676件で、10万件を超える児童ポルノの画像や動画が見つかったが、これらの画像から被害児童が特定できたのは338人にとどまっている。
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 もう一つ、こちらは「児童買春」についての記事ですが、
◆YOMIURI ONLINE 2009年7月27日10時17分記事
↓<児童買春「きっかけは一般サイト急増>
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090727-OYT1T00304.htm
以下、記事本文の引用。
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 北海道警が今年上半期に摘発した児童買春などの福祉犯罪で、被害に遭った18歳未満の少女が犯罪に巻き込まれるきっかけになったのは、ゲームやプロフなどの一般サイトが46件に上り、出会い系サイト(22件)の2倍以上だったことが、分かった。
 昨年1年間は出会い系サイトが51件、一般サイトが41件で、一般サイトをきっかけに、未成年者を狙う犯罪が急増していることが裏付けられた。

 今年上半期に道警が摘発した児童買春・児童ポルノ禁止法違反や道青少年健全育成条例違反などの事件139件の被害者113人を対象にしたアンケート調査で判明した。回答は82人から得た。
 ウェブサイトをきっかけに事件に巻き込まれた68件のうち一般サイトは46件。内訳はゲームサイトが24件(52・2%)で最も多く、ブログ・プロフの13件(28・3%)、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)4件(8・7%)と続いた。携帯電話を所持していた80人のうち、有害サイトへの接続を制限するフィルタリングを利用していたのは4人(5・0%)にとどまり、66人(82・5%)が利用していなかった。
 一般サイトの出会いが急増した背景には、年齢確認の厳格化を定めた昨年12月の改正出会い系サイト規制法の施行などがあるとみられる。

 道警少年課は「フィルタリングで有害サイトへの接続を防ぎ、情報モラル教育をしっかりやっていくしかない」としている。
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 思考が幼く、判断力もまだ未熟、かつ「情報弱者」である若年ユーザーが、ネットを介した「児童買春」あるいはこの記事にはそういう言葉は書かれていないけれども、「性暴力」「性的虐待」事件の被害者になっているということは言えそうです。

 いや、別に「だから、被害が深刻になったとはいえない」というつもりは毛頭ありません。ただ、ニュースは正確に読みとりたいと考えます。
 特に、前回の「児童買春・児童ポルノ処罰法 改正案」の審議で、自民党の葉梨議員が声高に叫んでいた「ペドファイルとの戦い」という趣旨が現在の実態に即したものなのかどうか。私はそのようには考えていません。
 何がどうであっても、発達途上の子どもたちが、性的虐待や性的搾取を受けるようなことがない社会を作って行かなくてはなりませんが、最近の小中学生は身体の発育がとてもいいので、小学生でも高学年になれば、別に「小児性愛者」でなくとも性的対象に十分なりえます。また、性的好奇心を刺激する情報はあふれていますし、一方で正確な「性の知識」は行き渡っていませんし、危険回避の手段についての教育も十分ではありません。学校はあてにできないし、保護者がどこまで対応できるかという問題もあります…性感染症予防や避妊の知識は今の保護者世代だって教えられるほどちゃんと持ってないですよ!判断力もまだまだ未熟です。
 そういう子ども達が「買春」や「性暴力」事件に巻き込まれているわけで、そういう事件の中でも「児童ポルノ」に値する写真や動画が撮られている場合もあることでしょう。

 中学生だけでなく小学生でも自分のケータイから「恋空」を読んで「感動」することも多いし、ゲームサイト利用者もいれば、親に内緒でブログやプロフを持っている子もいるわけです。中には顔写真や氏名を掲載してしまっている無防備なものもあります。自分を守るための知識も手段もわからないまま、氾濫する情報の海の中で、別に特殊な「小児性愛」「ペドファイル」に限らず、それなりに第二次性徴を遂げているけど、無防備で騙しやすい小中学生を狙う輩だっているはずです。
 
 「児童ポルノ」「ペドファイルとの戦い」という言葉で、「子どもの裸体で性的欲求を満たす」「キモい」「変態」の「特殊な性的嗜好」を排すという考え方では、現実の被害者の救済や新たな被害の予防とは異なる方向へ行くような気がしてなりません。