食品のモニタリング値をおっかけていて考えたこと

 どうも不思議で仕方ないのですが、今の「暫定規制値」はそんなにひどいものなんでしょうか。少なくとも、各地のモニタリングを見ていると、「暫定規制値」に基づいた食品の出荷制限や自粛、その解除方法をきちんと守っていれば、ほとんどの流通する食品は「暫定規制値」の定めるセシウム500Bq/kgよりはるかに低い値…検出限界未満や一桁の数Bq/kgがほとんどで、基準ギリギリのものは野菜に関してはないと言っていいでしょう。大問題になった牛肉も、リスクの高い群を調査中ですが、基準超は検査した牛の1割くらいで、モニタリング値の中には「検出限界未満」もちゃんと入っています。それでも、一度、規制が始まったら地域の単位で出荷制限がかかり、解除に至るまで「検出限界未満」の生産物も含めて市場にはでません。実際の緊急時モニタリングの数値を追っていくと、ある地域で出荷制限が解除されたときにはほとんどの市町村のモニタリング値が「検出限界未満」や一桁、二桁のベクレル数…暫定規制値の1/10〜1/50以下や「検出限界未満」になっているのです。
 「暫定規制値」をより低く設定して、現在の運用を実施していたら、3月4月には出荷できる生産物がもっとずっと少なくなってしまって(規制された中には汚染が「検出限界未満」のものが相当あるにもかかわらず、ですよ)、流通の混乱も含めて大混乱になっていたかもしれない、とさえ思います。買いだめでスーパーの米の棚が毎日空っぽになるくらいの状態だったにもかかわらず、あきらかに汚染されていないはずの昨年の秋に収穫されていた米でさえ、福島県産はもちろん、茨城県産や千葉県産も忌避されていましたからね。

 現状の出荷規制と解除のしくみは
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/syukka_kisei.htmlにありますが、県の中で市町村をいくつかまとめた地域を指定して、モニタリングがその地域内の市町村に1か所でも基準超の結果が出たら、同じ地域の他の市町村もまとめて出荷制限がかかりますし、出荷制限解除の際には3週間続けて基準内でおさまっていることが条件で、解除後も検査は継続して行われています。
 規制解除に至るまでの間に、生産者はただ待っているわけではなく、当然、出荷できるようにするために、土壌の改良や家畜の水、餌、飼育環境の調整をしているわけです。

 もちろん、ちょっとでも「より安全度の高い」食品が欲しいのは消費者として当たり前のことではありますし、小さいお子さんのいる家庭ならはなおのことです。だからモニタリングは重要だし、「可能な範囲で基準値を引き下げる」努力も重要なことではあります。でも、すべての生産物を検査するわけにもいきません。放射性物質の検査は、検体になる生産物をミンチにして調べるのですから、すべての生産物の検査をしたら食べるものがなくなってしまいます。
 また、すべての生産物の検査が無理であるなら、せめてモニタリングをもっと丁寧に行って欲しい、とは私も思いますけれど、1kgあたり1ベクレル未満の汚染を正確に計測するには、平常時でも1検体につき1500万円の機械で1時間はかかるようです。*1
 そして、3月4月の時点では、「緊急時(複数の放射性物質が検出されるような状況)」だったわけですから、厚生労働省が平成14年に出した「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」に従うと、1時間計測して「検出限界…測定誤差を考慮した上で信頼できると確認できる数値」は、牛乳・海藻・魚・穀類・肉類で16Bq/kg、野菜だと32Bq/kgにまであがってしまいます。30分の測定だとさらに検出限界が高くなってしまう。*2
 東京都の場合は、当初、食品の検出限界値を50Bq/kgとしていたのですが、それは、おそらく、このマニュアルを順守すると、1つの検体にかける時間が短かったために、実際の測定値が低くても「検出限界50」にせざるを得なかったということだと思います。けれども、都内の消費者はそれでは納得がいかなかったわけで、結局、「測定誤差の3倍を検出限界とする」という考え方を採用して、50Bq/kgよりも低く計測された数値のうち、新しい考え方の検出限界よりも大きい場合はきちんとその数値を公表するようになりました。これ、データの改ざんではないですよね。公表の方法を変えたわけですが、もとのデータは変わっていないわけで、公表方法を変えた根拠もきちんと示されていますから。

 話がだいぶそれてしまいましたが、モニタリングの件数を増やすことにも限界があるので、全体としての安全性を高めるには、除染や作物・家畜の管理など汚染を避けるための方策を生産者が共有して、地域全体として生産物の安全性を高めるしかないということになります。
 また、農産物や家畜は育てるのに時間がかかるものだし、農家が一度廃業・生産規模縮小をしてしまったら、もとにもどるまでにやはり時間が必要になります。

 だからこそ、ある程度の「がまん基準」を、大人は…とくに、40代以上の大人は、受け入れることも必要だろうと私は考えています。もちろん、「規制値」は低いにこしたことはないのですが、「規制値」を引き下げても汚染がなくなるわけではありません。ですから、「規制値がゆるゆる」という批判をしているよりも、国や自治体がするモニタリングをもとに生産者への支援をきちんとして、一方で生産者団体や流通などの民間部門での簡易検査(ベクレルモニターLB200、というセシウムに限定して計測する機械だと20分程度でそこそこ正確なデータがだせるようです。国内参考市価が100万円、楽天だと80万円くらいでした)を行う、というような取り組みをしてほしいと思います。ただ、そういうコストって、結局、値段に反映させないと回収できないわけで、普段使いの食品が超高級品になってしまっても困るんですよね。
 だから、「そこそこ安全」で「そこそこ安価」なそういうラインが必要なのだと思う。どのあたりが折り合いのつく「規制値」になるのか、そういう議論はもっとしたほうがいいでしょう。

 最後にもう一つ重要なこと、人の身体は回復力がちゃんとあるということ。
 低線量被曝の健康被害は「よくわからない」ことばかりだけれど、その理由の一つがこの回復力にあるんだと思うのです。
だから、普通に健康増進に役に立つものは、被曝の被害にも役に立つはずで、そういう文脈として「乳酸菌」「醗酵食品」を食生活に取り入れるということだって、それ自体はいいことなんだと思います。極端に走るのは危険ですけど。頑固な便秘に悩んでいるなら特に、野菜や醗酵食品を食べるのは大事なことでしょ。ビタミンやミネラルのサプリメントの錠剤にお金を使うよりは、新鮮な形のある野菜を食べたほうがいいです。ビタミンやミネラルだけじゃなくて食物繊維もちゃんととれるし。*3
 なんだか一部で流行っているらしい「手作り米のとぎ汁乳酸菌」は、どんな雑菌が増えるのか不明の恐ろしいものなのでやめたほうがいいと思いますけど、糠漬をきちんと手作りするのは、ちゃんとできる人なら良いのじゃないかしら。
 それから、家庭で調理する段階でも食品中のセシウム量を減らすことはできます。
 別に、非常に特殊なことをするわけではなく、通常の調理の下ごしらえ…洗ったり、塩水につけてあく抜きをしたり、調味液に浸して下味をつけたり(ただし漬け込んだ調味液はすてる)、下ゆでをする、スープや煮汁のあくとりを丁寧にするなどで、内部被曝の低減に役に立ちます。自分が取り組むことができることがあるのは重要なことです。ただ、これもあまり几帳面になりすぎると塩分の取りすぎやセシウム以外のミネラル分までなくしてしまうので、「普段の調理をちょっと丁寧に」くらいでいいのじゃないかと思ったりしています。私の場合はそのほうが長続きするし。あまり厳格にやろうとすると続かないですから(笑)。


 原発事故は起こってしまいました。
 汚染は広範囲に及んでいますし、環境中に放出されてしまった放射性物質はそう簡単に無くなるものではない…3月11日以前の環境に戻すことはできないという前提で生きていかなくてはならないんですよね。

 「みんなで生きるため」に何ができるのか、できることからやっていきたいと思います。

*1:そろそろ3月に放出されたヨウ素131が崩壊して放射線をださない物質に変わっていったあとですから、「平時」の基準で良いのでしょう。

*2:「検出限界」が高いということは、汚染がひどいということと同じではなく、低い数値がでたとしても誤差の範囲とみなされて、実際の汚染があるかどうかが判然としない、という意味のようです。

*3:単身生活だと野菜の料理はめんどくさくなるので、野菜ジュースでもないよりはまし、とも思いますが、最近の甘くて飲みやすい野菜ジュースだと糖分のとりすぎになったり、蓄積するカロチンなんかもとりすぎになって手や顔が黄色くなる場合もあります。気をつけてね!