私は「科学者」には正確さを期待するので

食の安全…我が家の場合 - よたよたあひる’S 「はてな」日記の続き、というか、これからがもともと書きたかったこと。

 前のエントリは私自身が「余分な被曝はしないにこしたことがない」と考えていて、公表されているモニタリング値をいろいろと見比べながら、調理方法を大抵は気にしながら(ときどきは忘れながら)ちょっとずついろんなものを食べることで自分なりの「安全確保対策」をしているくらいには、食品の放射性物質汚染と内部被曝を怖がっているというお話で、ここからは、そういう私が汚染牛肉の流通のニュースがでてからの武田邦彦先生のブログ記事について、とっても強い不満を持っているというお話です。

 どんな不満か、というと
(1)妥当で役に立つ生活情報の中に、不正確な情報が混在している。
   …特に「牛乳」についてはデマと判断してよいと考えます。また、政府、行政や「専門家」の発言・意見の紹介も正確さを欠くものがあります。
(2)危険性への注意喚起のために煽情的な表現をすること。
(3)(1)と(2)の結果として、武田先生の記事は、「国も自治体も(その発表するデータも)専門家も生産者も流通もみな信じてはいけない」というメッセージが発信されてしまっていること。
*1
 なんでもかんでも黙って信じろ、ということではないのです。根拠なき「安全宣言」など具の骨頂だと思いますが、実測値をもとに具体的な評価をしながら着実に対応していく必要があるのに、不正確な情報(デマでも流言飛語でも)をベースにして行動すると、迅速な対応をしようとしたはずが、かえって混乱する場合もでてきてしまいます。

 武田先生の記事は、福島県や関東地方の汚染が強い地域の人々、特に子どもたちを心配し、子育て中の女性たちの不安によりそおうとしている姿勢がうかがえる文章であり、また、自分で取り組むことができる被曝低減のためのお役立ち情報がいろいろ掲載されているので、参考にしている人は多いのではないかと推測します。だからこそ、不正確な情報が混在し煽情的な言葉で書かれているのはとても困ったことだと考えるのです。
 
 生活情報として参考にする人が多い武田先生の記事中に、モニタリングや行政対応や「専門家」の言葉が不正確に紹介されていて、生産者や行政や「専門家」に対しての不信感を書いているのでは、昨今話題になっているリスクコミュニケーションを混乱させる要因になります。だからものすごく問題が大きいと考えるのです。*2
 私がこのような判断したプロセスをこの記事に書きます。

 まずは、牛乳についての記述です。7月9日の記事
http://takedanet.com/2011/07/post_5d33.html
 南相馬市産の牛肉に2000Bq/kgを超えるセシウム汚染が発見された事件を受けて、「私は4月に各地のデータを見ていましたら、その時点ではまだ肉類には放射性物質が取り込まれていませんでした。7月に入って牛肉に放射性物質が入ることを予測できず、すみませんでした。」と読者に謝罪を述べたうえで、なぜか、牛肉ではなくて牛乳の汚染の話になってしまっています。

だから、食材というのはとても難しく、私が牛乳については煮え切らないことの原因になっていて、それは良心的な酪農家も同じく迷っているのですが、牧草の汚染度がハッキリしないのです.
かつて私は北海道の牛乳は安全だと言い、途中で少し危ないと変えました。それは福島の乳牛をこともあろうに、北海道に移動させた形跡があったからです。
日本の多くの人、子どもを抱えているお母さんは、安心な牛乳を求めておられます.是非、生産者は「汚れている牛乳を絶対、出火しない」と決意して欲しいと思います.
それがどんなに辛いことか、生活を脅かすものか、私なりに理解しているつもりです。でも同じ日本人として健康と命を守ってください。
政府が「国民を被曝させても、生産者を守る」という基本的立場を取っているので、政府に頼らず、私たちで子どもを守りましょう。
*3

 この記述の問題点は、福島県の原乳モニタリングと出荷規制や自粛の解除がどのように行われているのかを無視して、牛肉の汚染(牛肉が汚染されているなら牛乳も危険)+チェルノブイリ原発事故後の牛乳の汚染と子どもたちの甲状腺がんの問題+安全な牛乳を求めているお母さんたちの願い→【是非、生産者は「汚れている牛乳を絶対、出火しない」と決意して欲しいと思います(汚れている牛乳を出荷している生産者がいるだろうという予測)】になってしまっているというところです。
 決意も何も「汚れている牛乳」は出荷できないし、「汚れている牛乳」にならないように県も生産者も必死の努力をしているのですが。

7月11日の記事
http://takedanet.com/2011/07/post_088c.html

チェルノブイリでは原発から少し遠いところの牛乳を飲んだ子供たちから大量の甲状腺がんがでました。
このことがあるので、私も牛乳については慎重に調査をしていましたが、どうも危険なようです。
大手の販売会社は多くの親が心配しているのに、汚染状態を公開していませんし、「汚染された牛乳」と「綺麗な牛乳」をまぜて、ベクレルを規制値以内に納めているという情報もあります。
つまり、政府が「規制値を下回ったものを拒否するのは風評」と言い、それにのって業者が汚染の公表を避け、さらには「混ぜてベクレルを下げる」ということもなされるでしょう。

 これはデマの範疇に入ります。正確な情報は、1段落目のチェルノブイリの子どもの甲状腺がんの部分だけで、武田先生がどのような慎重な調査をしているのかわからないのですが、福島県のHPに掲載されている原乳の調査結果はほぼND(検出限界未満)が続いたものになっています。「いや、NDと書いてあったところでそのND数値が明記されていなければわからないじゃないか」という批判は当然あるかと思います。これは各報告で明記してほしい部分です。ただ、5月11日の検査結果で飯館村の原乳にCs137が6.5という数値を出していますから、6.5は「検出限界未満」ではない、と見ることができるのではないでしょうか。そして重要なのは、この6.5Bq/lの飯館村の原乳は出荷されていないということです。
 原乳の検査は、各農家から集めて一時保管しているクーラーステーションごとに検査をしてND(検出限界未満)が3週間続かないと出荷されません。出荷の制限は市町村単位で行うわけですから、個別の農家ごとの検査よりもクーラーステーションごとの検査のほうが効率的です。もちろん、汚染がひどかった当初はクーラーステーションごとの検査ではなく、個別検査の数値が下がった時点でクーラーステーションごとの検査になりました。そして、制限が解除されてもその後3週間はクーラーステーションごとの検査が続くのです。「きれいな原乳」であることが確認できたあとの原乳はさらに、乳業工場に集められたあと、そこでサンプルをとって検査をしているわけです。言い方を変えると原乳の検査は、野菜や肉、魚よりもはるかに徹底した検査をしている…「前頭検査」ならぬ「全量検査」(←液体だからね)をしていると考えていいでしょう。
 だから、牛肉から高濃度の放射性セシウムが検出されたからといって、牛乳も危険だ、というお話は変なのです。
 武田先生の7月11日記事には、次のような記述もあります。

【業者の方へ】
原発近くの牛乳のデータと物流について、すべて公開してください。
食材の安全と安心を得るには「正直で誠実」であることだけが求められます!!
汚染された牛乳を飲む子供たちとともに、一度、信頼を失うと、日本の酪農業には将来とも大変な打撃です!!

 生産者の時点で検査されて福島県のHPで公開されているのですが、それ以上の公表をどこの「業者」に求めるのでしょうか。「信頼を失うと大変な打撃です」ということは確かなのですが、現状で生産者にアピールするならば、「大変なご苦労をなさって安全性を確保してくださってありがとうございます。これからも厳しい状況は続きますからお辛いでしょうけれども飼料や水の管理の徹底をどうかよろしくお願いします。」になるのではないかと思います。

 私が参考にしている福島県のHPから、福島県内の農林畜産物の放射性物質モニタリング値が掲載されているページをご紹介します。*4
福島県HPトップ > 組織別 > 農林水産部 > 農産物流通課 > 原子力発電所事故による農産物被害等関連情報>原子力発電所事故による農産物被害等関連情報

お探しのページを見つけることができませんでした。- 福島県ホームページ
こちらの下のほうに、日々更新されている農林畜産物・水産物のモニタリング値のPDFへのリンクが掲載されています。

牛乳の検査と出荷制限についての手順は農林水産省のHPにQ&Aがあります。
きのこや山菜についてのQ&A:農林水産省

 厚生労働省水産庁のHPで公表している食物のモニタリング検査は、都道府県や生産者があちこちの検査機関で検査した数値のとりまとめだし、データそのものは信用しています。モニタリングの件数については満足していない、特に海産物そして今回の牛肉の件で肉類についても若干不安はあります。*5

…それとも私は何かを見落としているのでしょうか。

長くなったので、続きはまた今度。

*1:被曝低減に向けてとにかく一刻も早い対応が必要であるにも関わらず、行政の対応が後手後手になっているということ、特に環境放射線の数値が高い場所で子育て中の家庭が欲しい情報もなかなか手に入らず、いつになるのかわからない対応を悠長にまっていられない、という事態であることはそのとおりですし、なんでもかんでも「政府発表だから信頼しなさい」という話ではありません。でも、「危険or安全」の二分法では切り分けられない事態が目の前にあるんですよね。

*2:武田先生のブログ記事がデタラメばかり書いているものであるよりも、「妥当だ」「有効だ」「役に立つ」と思える記述がいろいろある中に、「それ、違うよね」というものが混ざっていることのほうが弊害は大きいと思います。

*3:文中の「出火」は「出荷」だろうと思います。

*4:これまで何度も県の災害関連情報のページが改定されてきましたので、その時々で検索して調べなくてはならないことがありました。以前は災害情報のページに掲載されていましたが、今日(7月15日)現在は細かいデータは「農産物流通課」のページから入れます。災害情報から入っていこうとするとなかなか見つけることができません。でも、これ「隠ぺい」というのには当たらないと思います。細かい数字のデータを見るのが誰か、ということにもかかわっていると思います。エンドユーザーである消費者よりもまずは生産者や関係団体、流通業の人たちがまず知りたい情報、ということなのではないでしょうか。情報量があまりにも多くて、県も掲載場所を苦慮しているのではないかなと思います…こういう書き方をするから、ときどき同僚や友人から「政府より」とか「行政より」とか言われるのかな…

*5:どうしても納得いかない人には、都内在住だったら東都生協を、そうでなかったら生活クラブ生協への加入をお勧めします。自主検査が充実しているし、何しろ86年のチェルノブイリ原発事故以来のとりくみで、ここ数カ月の「にわか」じゃありませんから。個別宅配もやっているし、情報発信も活発です。でも、私はHPなどを参考にさせてもらっているだけで加入はしていません。近所のお店で買い物もしたいし、スーパーやデパ地下での食料品ウォッチングと買い物も趣味なので。この二つの生協の考え方や取り組みはHPで読むことができます。あとで別記事に書こうかな。