甘い玉子焼きは「あこがれ」のお弁当おかずでした。

 私の小学生時代、小学校4年生くらいまでは月の半分が給食、半分がお弁当でした。
 1学年100人、全校生徒600人という田舎の町の小学校としたらそれなりの規模の小学校で、でも、給食室が狭くて、全校生徒の分の給食を作ることができない…だから、給食室では、毎日300人分の給食を作るんです。
 冬はお弁当は木箱に練炭をしこんだ保温箱で暖めていました。クラスの日直さんがお弁当を集めて給食室の横にある保温箱まで持っていくんですよ。保温箱に入れて暖めるから、お弁当箱はアルミかアルマイト製のものがほとんどでした。1,2年の頃は、私のお弁当箱は、「アタックNo1」の主人公のイラスト付きのものでした。

 お弁当のおかず、私の実家は自営業でしたし、母はあまり料理が得意ではない・・・特に玉子焼きは、はっきり言って下手でした。形が良くないんですよ。よく焦がしていたし。
 で、母の作る玉子焼きは、基本塩味のしょっぱい玉子焼きでした。玉子をといて塩で味をつけただけのときもあったし、ネギの刻んだのが入っていることもありましたけど。もっとも、玉子焼き作ってくれるときは余裕のある日に限られてましたね。大抵、前の日のおかずの残りで、野菜の煮物とかが多かったです。茶色いおかずのお弁当ね。
 時々、鳥そぼろと炒り玉子と桜デンブを載せた3色弁当の日があって、すごく嬉しかったのを覚えています。炒り玉子はお砂糖で甘くしてありましたし。甘いおかずは嬉しかったです。

 で、仲の良かった女の子が、もって来るお弁当がいつもうらやましくてね。その子のうちは、町の子では珍しい、お父さんがサラリーマンでお母さんは専業主婦でした。色とりどりの可愛いおかずがつめてあるお弁当で、その中の玉子焼きがとっても形もよくてキレイで、おかずのとりかえっこをしたら、甘くてね。
 私のうちは、炒り玉子は甘くするのに玉子焼きは甘くしないから、なんだかとってもうらやましかったです。あこがれのおかずね。
 「あおいちゃん(仮名)みたいなお弁当がいい」と母に言ってみたこともあるけど、まだ手のかかる保育園児の弟とオシメ赤ちゃんの妹がいて、家業も忙しいから母もそうそう手の込んだお弁当なんてつくれなかったのは一応わかってはいました。

 だから、甘い玉子焼きは、私にとってあこがれのお弁当のおかずです。