法的規制は反対だけど

 6月26日の衆議院法務委員会で行われた「児童ポルノ禁止法改正」の審議について。
 審議のツボの大激論が新聞各社には出ないなぁと思っていたら、J-CASTニュースの記事にようやく取り上げられた。

宮沢りえヘアヌード写真集 17歳で撮影なら児童ポルノ?>
http://www.j-cast.com/2009/06/29044242.html

 オタク的ネットヘビーユーザーの議論のヒートアップとはうらはらに、「世間」では注目度はあまり高くなっていない、と思う。
 だから、特に与党案のはらむ問題点(民主党案にも当然問題はあるけど)を指摘するのに、極論だけが広まっていくのはやっぱりまずいよなぁと思う。なるべく正確な情報を、今の時点で興味関心がない人に届けることがとても大事なんだと思います。

 あちこちのブログや、はてなブコメなんかで、参考人アグネス・チャン氏への攻撃的な発言があるのを見るとまずいよなぁと思うわけです。発信したそのときは憂さ晴らしができるのかもしれないけど、後になってから結局は自らの首を絞めることになってしまう。

 参考人として法務委員会でアグネス・チャン氏が、児童の性虐待の「加害者の言葉」として紹介した部分、
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「この活動、かかわってから、自分のホームページにも手紙も電話も来ます。いろんな攻撃的な脅迫的な、そういうようなことが起きてくるんです。彼らの言い分にしては、何でいけないの?私の個人的な趣味でしょう。子どもが性的に好きだから。法律は禁止されてないのよ、なんでこのババアがそんなことをいちいち言うんですか。私はそういう人たち許すことができません」
衆議院TV 6月26日法務委員会 14時32分からのアグネス・チャン氏の参考人発言よりよたよたあひるが聞き取ったもの。
 http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php

 ここで紹介されている言葉は、法務委員会の審議のまとめスレやれは、必ずしも実在児童の性虐待の当事者でも、アグネス・チャン氏がタイの保護施設などで会ってきた性虐待被害者の写真のユーザーとしての発言とは限らないでしょう。「ソフト・ポルノ」「準児童ポルノ」のユーザーからの発信も相当数含まれているのではないかと考えられます。
 中には、あのような紹介のされ方をして、そんなつもりで発信したわけじゃない、陵辱系は趣味じゃない、捻じ曲げて「加害者」として紹介されるのは不当である、と感じて、よりいっそう、攻撃性を強めた人もいたかもしれません。

 でも、攻撃された側にしてみれば、子どもの性的虐待・性的搾取に反対する運動として「児童ポルノ禁止」を掲げ、その運動に対しての攻撃であるわけですから、「加害者」としてひとくくりに認識されていても不思議はないし、投げつけられた罵詈雑言はそのまま、発言者の攻撃性、「加害者」性を確信させるものになってしまいます。
 
 『Santa Fe』にしろ、ジャニーズにしろ、せっかく規制派がオウン・ゴール発言を出してくれ、保坂議員が理性的な議論を展開してくれているところです。

 アグネス・チャン氏は「国民の選択は明らかです」と発言していましたが、国民が実際にどんな「児童ポルノ」を想定して規制に賛成しているのかその実態は明らかではありません。過激なエッチ・シーンは規制されて当然、と考えていても、ジャニーズが胸元をはだけている写真まで規制に入れて当然、古い写真集も廃棄処分するべし、などという規制に賛成できるとは限らない(…もちろん、それをもやむなしと判断する人はいらっしゃるかもしれないですけど…ジャニーズもグラビアアイドルも「性的好奇心を満たす」側面は確かにあるのですから…でも、それなりの「性的好奇心」がある、ということは健康的なことですよね…)。
 だから、より多くの人に興味をもってもらって、実際の審議を見てもらったほうがいいんです。
 私だって、今現在、国会図書館で『Santa Fe』が閲覧許可制になっていて、普通の図書館ではもう見ることができない、ということ、今まで知りませんでしたからね。うん、うちの連れ合いも知らなかった。

 あ、これは保坂議員が最後の質問の時間におっしゃっていたんですよ。この審議のために許可をとって閲覧したそうです。葉梨議員は『Santa Fe』はごらんになったことがなく、質問で『Santa Fe』を取り上げた枝野議員も「細部まで詳しくは見ていないので民主党案の「児童ポルノ」に『Santa Fe』が該当するかどうかは審議の時間中には答えられないということだったんですけどね。


 高校1年の娘は、栗山千明さんのファンだから、『少女神話』がほとんど幻の本になっている、ということは知ってたけど、『児童ポルノ法の改正』が与党案で通っちゃったら、本当に幻の本になってしまうということに気がついてびっくりしていた。あと、彼女は、ゴス趣味だから、規制が「創作物規制」にまで及ぶと彼女の好きなイラストや球体関節人形がもろに引っかかるだろうということにも気がついて愕然としていた。金子國義のイラストはもちろん、恋月姫の人形だって充分ひっかかるものがあるでしょう。アメリカの『Protect 2003』だと、彫刻も含めたすべての創作物まで含めて対象になってますから、二次元規制が入ってくると、人形やフィギュアも対象になる可能性は高いです。


 エロゲやロリコンエロマンガや少女漫画の過激な性描写、あるいは、801の18禁本に嫌悪感を持つ人も、自分に子どもがいて、「小児性愛者」という「危険な変態」を恐れている人も、それぞれが各自、自分でイメージしている「児童ポルノ」を前提に考えますからね。それぞれのイメージ自体が相当異なるはずで、それを検討する機会はこれまでなかなかなかったわけですから。